結婚しない人は異常なのかというと、そこまで人間は融通がきかないわけではない。たとえば今日本人のほとんどは高校へ行くが、義務教育を終えたら必ずしも誰もが高校へ行くわけではないし、そこを出ないとこの国では生きていけないというわけでもない。大多数の人と同じでなくても平気な人はいるし、それに少数派というものは自然と寄り集まるものだ。結婚することが当たり前な地域から、結婚していなくても目立たない都市部に、そういう人は移り住む。このことを実感したのは、クリスマス時期にイギリスに旅行した時だった。イギリスのクリスマスというのは(他のヨーロッパの国やアメリカなどではどうなのかよく知らないが)日本でいうところのお正月である。それも物であれ習慣であれアンティークなものをよしとするイギリスでは、依然昔のまま二十四日から二十六日か二十七日、どうかするとそのまま新年までずっと仕事が休みになって、その間彼らは当然のごとく家族と過ごす。私が滞在した町はロンドンから遠く離れた地方だったせいかそれが顕著で、クリスマスを一人で過ごす人なんか、まずいないそうである。それは昔からの習慣でもあるし、現実的にもクリスマス休暇の三日間は、開いている店はまったくなく、バスも鉄道でさえもストップしてしまうので、家族が集まって飲み食いするくらいしかすることがないのだ。土地の人にそう言われて、私はついむきになってしまった。「でも、仲の悪い家族だってあるだろうし、家族も恋人もいない人や車を持ってない人だっているでしょう?そういう人はクリスマスどうしてるの?」聞かれた人はしばし考え、苦笑いを浮かべこう言った。「だからクリスマス前には離婚率と自殺率が上がるのよ」よかった、イギリスに生まれないで。というのは言い過ぎですね。すみません。正月前に離婚率と自殺率が上がるのは日本だって同じだろうし、さすがにロンドンではまる三日もバスが止まってしまうことはないらしい。行ったことはないけれど、ニューヨークやパリでも同じような現象が起こっているのじゃないかなと私は想像する。大人になっても結婚しないということは、延々と受け継がれてきた家族の鎖をそこで断ち切るということだ。人々が家族と過ごしている間、一人でいなければならないということだ。それも一生、死ぬまで。よほどの覚悟と意志がないかぎり「結婚して家族の新メンバーを増やす」という全人類的な普遍を撥ねつけることは難しいと思う。みんなが高校に行くから自分も行って、まあ事情が許せばその上の学校にも行って、みんなと同じように働いて、そうしたら次は自然と結婚したくなって、結婚したらできれば子供を生んで、そうやって一生を終えていきたいと思うのは、当たり前といえば当たり前のことだ。なにしろ、世界中のほとんどの人がそうなのだから。
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